雑感

スペインではほぼSUSHI仕事しかしてこなかったが、当地では、ホットセクションで実験的な新メニューに多く携わらせてもらえていて、個人的にはごく馴染みのある料理であるものの、お客の反応がしばしば予想外で驚かされる。

提供している新メニュー例は、豚辛味炒め丼、鶏照焼丼、焼鮭丼、カレー、辛味噌シーフードラーメンなど。いずれも当地では珍しい底の深いボウル型の器。日本式に言えば、正に丼。あらかじめ火を通してある食材にちょっと味を加えて白いご飯にのっけるだけ。ランチタイム限定、安くて早くてボリュームもあって、店はビジネスマンも学生も買い物客も観光客もとにかく通行人が多い立地にあるし、和食の定番昼食メニューがどう受け入れられるか、と興味深かった。

最大の驚きは、大勢の客が丼の上だけ食べて、下の御飯を残すこと。3種の小どんぶりをセットにしたメニューも同様、飯だけの小どんぶりが3つ戻ってくる。白飯がすすむべく盛られた濃いめのタレがたっぷりあるにもかかわらず、ご飯は一口二口しか食べてなさそうな客も多い。これで、満腹になるとは思えない。ということは満足度は低く、リピートオーダーは難しいかも知れない。フォークで食べるどんぶり、無理があるのか。。

やっぱり米食に慣れない欧州人は、どうにも白飯を食べられないようだ。まだ麺の方が親しめるようで、ご飯と麺と選択式にしたカレーはなんとカレー麺でしか注文が来た試しがない。Plain Rice、普通の白ご飯というアラカルトメニューがあるが、このご飯の代わりに味なしで茹でただけのPlain Noodleを欲しがるお客も特に子供に多い。豚肉炒めや鶏照焼の下を御飯ではなくPlain Noodleに替えて欲しいという客もいた。じっくり観察してはいないが、丼の下部の白飯を食べるに際しても、醤油をたっぷりかけて、という塩辛い味が求められているようだ。であれば、丼の上部の料理をのっける前にまずタレを白飯の上にかけるのがよい、ということになるので、それを試みることもあるが、鰻重の蒲焼のタレならまだしも、肉用の強く辛かったり甘かったりするソースを直接ご飯にかけるのはどうにも自分の気分が進まない。いっそ白飯を盛るのはうんと少なめにしておいて、ご飯大盛無料をアピールするのが自然か、とも思うが、そういうコミュニケーションが成立するのか、未だノル人ウェイター達にも相談できてない。

白飯は食べられなくても、酢飯のSUSHIはよく食べる。中でも好まれているのが、海苔巻きを揚げたてんぷらロール。マグロ嫌い、ウナギ嫌い、握り嫌いの客はいても、揚げ物は万人に愛される一番人気商品。厨房側でも、巻いた海苔巻きを冷蔵庫に何時間も前から保存しておいても、注文を受けてから揚げれば、中は生で外はカラリ熱々な皿をさっと提供できて、ごく容易にこなせる料理だ。

ところが厄介なのが、毎日1回以上、20組に1組位はある、条件付のてんぷら。「グルテンフリー。」この指定があるために、3つめの揚げ油を用意し、小麦粉ではなく片栗粉(コーンスターチ)を使って全然サクサクしてないグルテンフリーてんぷらを揚げなくてはならない。キッコーマン醤油にも原料に小麦が使われているから使用不能。市販の加工食品で普通のキッコーマンが使われてる可能性もあるから、原材料チェックを厳密にするのは大変な手間だ。グルテンアレルギーという言葉を聞いたことがない訳ではなかったが、少なくとも40年日本で暮らしてて、小麦アレルギーの人を身近に見聞きした覚えがない。遠い昔から米ではなくパンを食べてきた筈の欧州で、どうしてこんなに小麦粉を口にできない人が多いのか。もしかして、花粉症みたいに昔は全く意識されなかったのに昨今急増した現代病なのか?そもそも、グルテンがだめだという人は、本当に命にかかわるアレルギー持ちなのか?なんとなく体に良さそうだから、ご飯は太る同様ダイエットに効果がありそうだから、とかどっかの健康商法に乗せられてグルテンフリーを指定してるんではないのか?だいたい、グルテンフリーでエビフライを注文する奴の気が知れない。パン粉をつけずにどんなフライを期待するのか。乾燥した葉っぱを衣にした緑色のエビフライがそんなに旨いのか。

しかし、需要に応えるのが商売の基本。グルテンフリーメニューを揃えることは、少なくとも当地で外食業に関わる際には鍵になる。味はもちろん大事だけれど、お客が安心して気持ちよく食事ができるために配慮しなくてはならないことはたくさんある、ということのようだ。