容疑者Xの献身

昨年の「このミステリーがすごい!」で1位、直木賞まで受賞した倒叙物というジャンルに属するらしい。東野圭吾を読むのは初めてだったが、ある理由からこの作家には特別な親近感を抱いていた。加えて、物語の舞台となる隅田川の西岸、新大橋から清洲橋に至る川沿いの道は毎週走っているコースであり、登場する青いビニールシート住居民の缶男や技師の存在はすぐにピンときた。
本の帯には「命がけの純愛が生んだ犯罪。」とある。確かにその通りで、あまりに命がけ、あまりに純愛だったからこそ成り立つトリックにまんまとひっかかった。フツーそこまでするかよ、だと白けるのだろうが、そうとも思えなかった。素朴な好きの感情も嵩じるととんでもないところまで行ってしまう。相談相手だったり、ボディガードだったり、ストーカーだったり。行動に移すも移さないも紙一重なんじゃないか。そんなこともあるかも知れない、所詮生きていれば辛さや哀しみからは逃れがたい、そう感じさせる迫力はなるほどうまいと思った。