悪夢の仏語教室

嫌な予感はあった。ANAEMでの周囲の状況から大半の外国人は既に仏語がしゃべれている状態で入国しているようだったから。でも、もしかしたら、仏語教育に熱心なこの国のことだから、超初心者のためには「Ca va?」、「Tres bien, merci.」くらいの基本の挨拶からレッスン開始なんじゃないかという淡い期待もあった。それがどうだ。本日が最初の授業は衝撃だった。

先生が交通事故の様子を説明して、その話を基に警察に提出する状況報告書を作成するだなんて、なんじゃらほい、である。

20人くらいの生徒の中、たまたま私の隣に南アフリカ人のウィリアム君が座っていてくれていたから、今みんなが何を話しているのかを説明してもらえてよかったものの、他は、先生も含めて英語を解する人は皆無のようだった。

時間と人数の問題があるのだろうか。1クラスに同じレベルの生徒を集めるという考え方は存在しないようで、仏語の日常会話を殆ど苦にしていない者とド素人の私が同じトレーニングを強いられるのだ。

そして、ここでも契約。原則在仏中はこのクラスに出続けなくてはならず、休みは事前申請制であると書いてあるらしい契約書に月が替わる毎にサインさせられるんだそうで、こんな話もウィリアム君の通訳があってこそ理解できた。

まあ、交通事故の話は2時間のうちの最後の30分くらいで、はるかに取り組みやすい前置詞を尋ねる文法問題や好き嫌いの聞き方、答え方の練習なんかもあるにはあったのだが、とにかく次から次へと仏語のシャワータイム。すっかり私がマークされて、先生に何度も「D'accord?」と畳み掛けるように聞かれても、私はひたすら「Non. Je ne comprends pas.」を繰り返すしかない。わかんないって言ってんのに、ひたすら仏語で説明しまくる女先生が怖い。仏人=中国人説が脳裏をよぎる。気の毒がって通訳に割って入ってくれるウィリアム君が天使に見える。語学の授業で生徒が通訳してるってなんなんだ。

これが語学留学中の身だったら、それなりに意欲も沸いてくるのかも知れないが、こちとら商売はほとんど英語で足りて、その英語が覚束なくて悩んでいるというのに。週に2度2時間づつってことは、ANAEMから与えられた400時間の私のノルマ達成のためには、あと2年間も学校に通い続けねばならないのか。仏語試験の成績如何では、滞在許可証の更新にも影響があるのだ、と脅された。ひょえー。