3月はあの

ペナルティ−お吸い物が濃すぎた。鯖の骨の取り漏れ。舎利にダマを作った。電子レンジに兄舎利置き忘れ。レジ入金遅れ。酒発注漏れ。穴子焼き遅れ。夕方おしぼりHOT BOXスイッチ付け忘れ。出前のお釣り確認忘れ。出前作成時に桶の裏にご飯粒。穴子を焼いて焦がし過ぎた。ランチの看板下げ忘れ。フグの白子の落下(ダブル)。
1年が経過したら、やらせてもらえることが増えてきた。一つは貝類の仕込み。貝剥きナイフを差し込んでグリッっと動かす角度や力加減に慣れないうちは、身を壊してしまって商品を台無しにしてしまっていた。アサリやハマグリならともかく、赤貝、トリ貝、北寄貝なんてこれまでの食生活では全く縁がなかった食材だが、日々ゴリゴリ剥いている。ホタテのヒモは食べておいしいとも思うが、あまりに大量発生するので都度捨てるようになった。どの貝も魚河岸に行けば剥き身で売っているが、職場では基本的に殻付きで買う。だから毎朝冷蔵庫には10kgはあろうかという大盛の塊をバットに入れて突っ込むことになる。硬い厚い殻の中で複雑貝奇な構造をして、だらしなくベロリと舌を出したり、一体こいつら何考えてんだか、と思うが、旨味、歯応え、香り、酒との相性、とにかくおいしい。仕込みの原則は、早く、無駄なく、食べ易く、美しく、であり、ヒモの分離、身の開き方など、貝の種類は違えど、共通箇所は多い。数をこなせばもっとスピードアップできそうだ。理解が深まったと思ったのは、おろし方に複数のやり方がある、ということ。まるで数学の問題に一つの答に到達するまでに複数の解法があるのを知ったような新鮮な感覚がした。北寄貝の身の開きは、あと1回失敗してもペナルティにはならない。先日、赤貝2kgを1000円で買えたが、あんまり大安売りしてないし、安過ぎても菌が怖いので、なかなか自家用には買いにくいが、生きた貝の仕込み方と味を知りえたことは大収穫。吉池に売ってる、まだ味がよくわからない、ミル貝、ツブ貝、マテ貝、タイラギ等を試したい。アオヤギと小柱が殻の中にどう納まっているのかも気になる。貝に親近感が沸くあまり、また金魚屋で石巻貝を飼育用に購入する。
もう一つ、最近良い経験だったのは、出前用の5人前桶を一人で握って埋めたこと。よく自分のできなさぶりを「お前は観察力が足りない」と叱られているが、いつも見慣れた作業でも、それを自分がやるとなるとどうにも勝手が違ってくる。直径40cm位の円の中に6貫の巻物と20貫の寿司をどうバランスよくレイアウトするか。配置すべき場所が一目瞭然の途中からの部分パートだけを担当するのと、まっさらのゼロから開始するのとでは全然違う。置きながらなんとなく位置・間隔を調整するというのではなく、完成予想図を頭の中にしっかりイメージした上でそれに沿って、最初の一貫目、次の二貫目、としかるべきポジションにピシリと決めていかねばならない。経験の多寡次第とも思うが、色、形、大きさ、角度、スペース、どうすれば空間を美しく彩れるか、強い構想力が問われることを実感。同様に、フルーツを盛る際にも、カットの時点で盛り込み後の器の完成イメージを明確に意識できるように、とよく注意されているが、等分カットがまず重要課題の自分にとっては、出たとこ勝負みたいなところが多分にあってかなり覚束ない。数をこなすことに意味がある、と頭で判っていても、早く出さなければならない多忙な時間帯には、お客様のためにも、という大義名分も手伝って仕事を周囲の人にお願いすることが多くなっている。もっと貪欲で図々しいくらい積極的な方が成長が早いものかも知れない。でも、技術的な進歩がないにしても、何が足りないか自覚できる点は少なくても1年前に比べたらよりはっきりしてきていると思う。問題の所在を発見すれば、その問題の半分は解決できているはず。見習い2年目、どうなることやら。