ギックリ腰にビックリ

それは、付け場の床の排水溝をデッキブラシでゴシゴシ掃除している最中に突然に来た。昔から長時間椅子に腰かけていると、背骨の根元のあたりがジーンと鈍痛がしてきて、しきりと姿勢を立て直して痛みを回避してこようとしてきたものだったが、そのあたりで溜まってきていたマグマがいちどきに噴き出してきた感じ。腰にビリッと電流が流れたようで力が入らない。夜になるにかけて痛みは増し、前傾することはもちろん、椅子に座ることすら容易でない。歩行すら壁に手を這わせながらでないと前に進めない、という情けない有様。やっとのことで帰宅し、すぐに妻に腰全体に湿布を貼ってもらう。うつぶせになることも、そこから起き上がることにも何分も時間がかかる。夜中にも痛さで眼が覚める。寝返りをうちたい自分とその行為の途中のあまりのビクッとくる痛み故に動くまいと抵抗する自分。金縛りというものになったことはないが、ベッドにじっと横臥しつつ額に脂汗をタラタラさせて悶々としているなんて、こんなことになるなんて、誰が予測しえようか、これが人生生まれて初めてのギックリ腰体験。
あくる朝一番に近所の整形外科へ行く。自宅内では手を壁に這わせながら歩いていたくらいだから、近くでも大変。ただ、整形外科の見立てはあっけないもの。レントゲンで骨に異常なし、普通のギックリ腰ですね、一週間で軽くなり、三週間で治るでしょう。治らなかったらまた来院してくれ、とのことで、湿布と筋肉を柔らかくする薬と痛み止めの飲み薬をもらう。今日は自宅でゴロゴロしてようか、と思案していたところ店のAちゃんからの電話。今日は、来なくていいよ、の用件かと思いきや、「来る時、途中で食器用洗剤1日分買ってきてください。」ああ、そうですか。では行きましょう。Aちゃんは、この日自動車学校に入学予定だったのに、私が腰痛で動きづらいのを察して私の分まで働く、と入学を延期してくれたのだった。そんなやる気満々の同僚(17歳!)がいるのに家で休んでいる訳にもいかないでしょう。べテラン板前Tさんも即座に自身の経験から得たコルセットを職場に持参してくれた。多謝。
俺も年か、と中年の悲哀に感じ入ってたが、発症から24時間もするとだいぶ楽になってきて、おっ、この回復力、いいんでないの、と単純に一喜一憂する。身体が不自由な怪我や病気をすると、健常体でいることがどんなにか恵まれたことであるかをつくづく思い知ることができて、何事もプラス・マイナス表裏一体なんだよな、と思う。ギックリ腰も、永年鬱積した膿が一気に出尽くした症状で、これでもはや腰痛とは無縁の生活ができる、みたいな発想ができれば前向きに考えることもできる。が、しかし、次女のクラスメイトのお母さん聖体師曰く、電話帳くらいの厚さのものを足の爪先で踏むようにして体を柔らかくすると予防できやすいそうだが、盲腸なんかとは全く違ってむしろ再発の可能性は大いにあるとのこと。ゲゲッ。hexenschuss、a witch's shot、魔女の一撃、次回のめぐり合わせはいつの日なんだろう?