関西行き、熱海に寄る

大阪、京都、熱海と3泊の出張。
関西では、ジュンク堂の三宮店と堂島店の店長との会食の機会に恵まれる。御二人とも丁度執行役員に就任されたばかりであったが、非常に気さくな人柄でびっくりさせられる。出版界といえば、毎度毎度年の初めからお歴々がわんさか勢揃いしての賀詞交換会やら何やらのイベントが盛り沢山、顔を出すのは常に気後れしてきた。ところが、此の度はこの業界の堅苦しい空気がまるでない。関西人の気安さかも知れないが、会社の社風もあるだろう。聞くところでは、同社は当時26歳の工藤社長が現在の三宮店を1号店として開店させてから今年30周年を迎えるらしい。地道に本だけ売り続け、今や25店舗、年商330億円の全国企業にまでなった。図書館のように椅子を置いたり、珈琲を飲めるようにしたり、急成長の過程では次々と型破りの試みを実行してきた。偉いのは現場を預かる店員であり、店長の仕事とは現場が働き易いようにするだけなんだとか。三宮の店長とは、まる12年+1日、誕生日が違うことが判明。「夢中になった青春ドラマはなんですか?歌手は誰が好きでしたか?」好奇心の塊のような質問攻めや、書店経営のツボをさらりと語る店長との会話はとても面白く、あっという間に4時間が過ぎていた。

京都では三条大橋たもとの小宿に泊まる。大学受験以来、京都では鴨川河畔がお気に入りスポットだからであるが、もう1つの理由は叡山電車に便がいいこと。鞍馬に向け北上し、恵文社一乗寺店を初訪問する。人気は少なく閑静な立地、木製のレトロな観音開きの扉や軋む床、ギャラリーにアンティーク雑貨も扱う店内は、ヴィレッジヴァンガードを女性客だけ意識して小綺麗にしたよう。興味をそそられる掘り出し物のような本がいくつも散見される。こんな書店が家の近所にあったら、さぞ楽しいだろう。晩飯は先斗町の居酒屋に行ったが、おでんといってもスーパーで売ってるパックをレンジで温めたような代物で、美味とは言い難かった。どんな客が来るんですか、と尋ねると、ほとんどが観光客か出張中のサラリーマンなんだそう。「こんなにビールが高いこの辺には地元の人は来ませんよ。」そう言われると、もうおかわりする気は失せる。いっそもっと高い店に行けばよかった。京都って贅沢をしようと思えば、物凄く贅沢な遊び方ができるのだろうにと思われるのだが、どうにも京料理とも舞妓さんとも縁がない。いつか散財してみたい。できるか。

熱海合宿には集合時間よりも2時間早く現地に着き、大湯日航亭で朝風呂に入る。その後はほぼ隣に位置するニューフジヤホテルにて延々と会議。例によって、短期と長期、部分と全体、カネとやりがい、社内育成と外部調達、博打と安定、機能と信用、マーケティングとマネージメント、などなど、両立が難しかったり、優先順位に個人差が発生しがちだったりする話題で意見を出し合う。序盤の分科会にどうなることかと不安になったが、結果的に有意義な議論だったと思う。仕事が増える中、「1つのことに集中すれば成果が出る奴でも2つ3つ同時にやると全滅したりすんだよな」と聞くだに他人事でない。多くのミッションに頑張って挑戦、という気持がかえって裏目になる。かといって最初からあきらめるのもどうなのか。見極める力が問われる。ホテルは思いのほか客が多く、熱海人気は復興中なのかも知れない。11階の露天風呂から街の夜景を見下ろすのは気持良かった。3種の風呂に入浴したが、どこもぬるめの湯だった。もっと熱くても良かった。